国語 変遷する公用語

2024/5/12

国語と聞いてみなさんは何を思い浮かべるだろう?
自分は、漢字の書取りや小説の一節を読んで作者の意図を答える、嫌だった国語のテストがまず頭に浮かぶ。
しかしながら、国旗や国歌、国鳥などと並んで国語と言う言葉が出てくると日本語のことなんだな、と思う。

国語(國語)と言う漢字を自国の言葉の意味で使っているのは台湾。台湾で一般的に使われる台湾語や一部の人が使う客家(ハッカ)語などもあるが、学校で習うのは国語、日本で言うところの中国語(普通話)。

「国の言葉」。国の主体をなす民族が、共有し、広く使用している言語。その国の公用語・共通語。
自分なりに解釈するとその国で多くの人々が使っている言葉、と言うことになるだろうか。
勘の良い人は「国が定めた言葉」では無いのかと思うかもしれない。確かに国が定めた言葉の場合もあるが、必ずしもそうとは限らない。

日本での日本語やアメリカ合衆国での英語などは、法律では公用語として制定されていないので、少なくとも国が定めた言葉ではない。

参考までに、ミクロネシアのパラオ共和国のある地域(アンガウル州)では、日本語が公用語の一つとして制定されているらしい。実際に日本語を話す、または、理解する人がどれほどいるのかはわからないが。

バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)に関する本を最近読んだ。
現在は各国がそれぞれ自国の言葉(エストニア語、ラトビア語、リトアニア語)を公用語としているが、ヨーロッパ(ポーランドやドイツなど)とロシアの権力闘争の舞台となり、ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)の一部でもあったこの地域では、法律で定められた公用語も都度変わり、時の政権によっては「公用語」の使用を強制される時代もあったらしい。

「最後の授業」と言う小説がある。フランスとドイツの国境地域に位置するアルザス=ロレーヌ地方の学校を舞台にした短編小説。昭和の教科書に載っていた記憶もある。フランス語が公用語とされていた時期に「国語」(フランス語)の授業を行っていた先生が「今日がフランス語の最後の授業です」という衝撃的な話をする。今まで、みんなが当たり前のように使っていた「国語」が明日からは使えない(少なくとも授業では無くなる)。但し、小説の舞台となったアルザス地方の言葉はドイツ語に近かったようなので、実際にどれだけ大きな問題になったのかはわからない。

最近少し一緒仕事をしたフィリピン人によると、自分たちの世代はフィリピン語(タガログ語)と英語だが祖母はスペイン語を話すと言っていた。

中国に住んでいた時に知り合った「少数民族」の人たちは、中国語は小学校に入るまで話せなかった。大人になってからも中国語が母国語なのかどうか分からない、と言っていた。
中国ではさらに中国語強制の度合いが強くなっているとの報道もある。

戦争の続くウクライナ。2014年にロシアが侵攻したクリミア半島。もともとロシア系住民が多かったこともあるがその地域の公用語はロシア語になった。その他の地域でもロシア語化を図ろうとしている。それに対して、ウクライナでは元々ロシア語を話していた住民も含めて、ウクライナ語使用に傾いている。

日本でも明治時代以降、日本語教育の強化によりアイヌ語は日常生活から姿を消して行った。琉球語も同じような運命を辿ったのだろう。また、第二次世界大戦終結までの一時期、日本が近隣諸国で日本語での教育を行い半ば強制していた。

さらに時代を遡るとアフリカ諸国のフランス語や英語、南アメリカ諸国のスペイン語やポルトガル語など、世界情勢の変遷に伴い各地域で使われる言葉が変わって来た。

公用語としては制定されていない日本の日本語。日本に住む外国出身の人たちも増えてきた。法律に照らせば、日本語が話せなくても良いのだろうが、そうであれば日本語以外の言葉での生活者支援がもっと進んでも良い。

逆に、スペインとフランスに挟まれた内陸国アンドラでは、外国人が在留資格を得るためには最低限の公用語(カタルーニャ語)の習得を義務付けたとの報道もある。

言葉は人間が人として生活していく基本。文化の基礎。
国が定めた国語でも無い日本語をみんなが当たり前のように話す日本。将来の日本でも日本語が話され続けて行く保証はどこにも無い。

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