『ペスト』
売上が伸びているという小説 カミュの「ペスト」をやっと読み終わった。
舞台は、第二次世界大戦頃、当時フランス領だったアルジェリアの都市・オラン。
ペストは過去に何回も世界的大流行が起きていて、カミュの時代には既知の病、感染予防策・治療薬もすでに存在していたようである。そこは、未知の伝染病と言われる新型コロナと違うと言えば違う。
ペストが流行し、都市がロックダウン(封鎖)され、外部との往来が禁止される。当時は飛行機移動は無く、オランの住民はもとより、市外から来てオランに滞在していた人も帰郷できずに閉じ込められることになる。
時代背景も病原菌も違うため現在の日本の状況と単純に比較はできないが、人々の心理や生活への影響は共通する部分もある。
『まったく、こいつが地震だったらね!がっと一揺れ来りゃ、もう話は済んじまう…死んだ者と生き残った者を勘定して、それで勝負はついちまうんでさ。ところがこの病気の畜生のやり口ときたら、そいつにかかっていない者でも、胸のなかにそいつをかかえているんだからね』
アフリカプレートとユーラシアプレートの境界に位置するアルジェリア北部も地震の多い地域。
2003年5月には2000人以上が亡くなるM6.8の地震も起きている。地震ではしばらく余震が続くことはあるにしても、基本的には1回限りの災害。過ぎ去ってしまえば、すぐに復興が始められる。それに対して感染症は目に見えず、いつ終息するかわからない。これが一番の違い。
オランで、ペスト発生の兆候が見られ始めてから約1か月後に街が封鎖され、不便な生活が強いられることになる。
『みんな考えるところが一致していたのは、過去の生活の便利さは一挙に回復されはしないであろうし、破壊するのは再建するよりも容易であるということであった』
街の封鎖から約9か月でペストは自然に終息し、都市の封鎖が解かれる。
この1年弱の不便な生活の中で起きるできごとを主人公の視点などから淡々と書き綴られている小説。
現時点の日本は、小説内のオランと言う一つの街よりも規模が大きい。また、オランや現在の諸外国の一部の都市に比べると行動制限も緩い。
人々の感じ方は平常時の個々人の生活スタイルにもよるので、一概には言えないが、比較的自由度があるとも言える。
ペストと共通するところでは、先に引用した部分、「いつ終わるかわからない」「過去の生活の便利さは一挙に回復されない」。
それでも新型コロナ禍もいつかは終息する。
『 』内は、新潮文庫『ペスト カミュ/宮崎嶺雄訳』から引用