第二次世界大戦時の生活

2020/4/6

伯母の子供の頃の手記の一部を以前載せたが、手記には続きがあった。コロナウィルスへの臨戦態勢の今、戦中戦後の価値観の変化が見られる文章を一部編集して載せてみる。


当時よく母に叱られた。兄弟けんかで姉との時は私が、弟との時も私が叱られた。三人兄弟の真中の私は、上とも下ともいずれの時も私が叱られ役となった。弟については「嫁に行き、出戻った時は、長男の弟に世話になるのだからと」。躾の面では、他人に後指をさされるようなことをするな、お前が笑われるだけと違って親が笑われると。父や弟の枕元を通っては叱られたし、魚の煮付は、頭の方は父や弟に、尾は私の方であった。

夜は怖かった父は、夕食後も店先で釣針製造の仕事をこつこつしていた。職人気質というか、仕事にかけては名人芸で、父の作った毛針を遠くから求めに来る客はあったが、商売は下手で、一銭も、どのお客にもまけなかった。一人にまけるのは、不公平だと、また、気に入らぬなら買ってくれなくてもよい、という考え方で、お客との応対は子供心にハラハラさせられた。

仕事には頑固で気難しく、子供の躾にかけてもきびしい父であったが、十七才の姉が死んで急に穏やかになった。

五才年上の姉は、徐々に失明し、死ぬ前四ヶ月入院生活であった。母が付添っていて、家には父、弟、私の三人であった。父の作ったおかずをどんぶり鉢に入れて、市電に乗り病院に届けるのが日課であった。その姉が死んで家に寝かされていた側で、なぜ私の姉だけが死ぬのかと、淋しさより納得できずに泣いた。

その翌年の夏、近所の豆腐屋の子が、嵐山の川で溺れて死んだ。姉の時に憶えたご詠歌を七日々々あげに行った。

小学校六年では担任の先生が結核で亡くなった。四年生も担任であった若い男の先生であった。下宿の二階で安静にしていられた先生を見納めに、その後入院先にお尋ねしたが、感染するということと重症とで面会できなかった。当時は、先生の健康管理は不十分で、開放性のまま講義をしていられたのだろう。

私はツベルクリン強陽性である。陽転とか肺門リンパ腺とかで、六年卒業による進学については空気のよい所が選ばれ、開校三年目の光華をすすめられた。阪急西京極駅からは、田んぼの中に真新しい校舎がくっきり見えた。

女学校一年は普通に勉強、二年からは農家の麦刈、稲刈にしばしば手伝いに行った。英語は二年間だけ授業がゆるされていた。

三年では学徒動員で、三菱重工業株式会社に出向した。桂駅から徒歩十五分程の所にあった。かき色のズボンと上着、戦闘帽にリックサックの姿であった。十五才の少女に大きすぎる旋盤を一人で操った。直径七糎の鉄の棒より、厚さ二糎程の小さな飛行機の部分品を造る仕事であり、少しの油断は怪我を伴った。

友人は手掌を三針縫う怪我をした。麻酔もなく外科は三針縫合した。その友の痛みを一緒に感じとりながら縫い終わるのを待った。

疎開で工場は桂から大丸に移った。終戦のラジオ放送は、この大丸の二階で聞いた。材料も殆んどなく、休み休みの旋盤であったが、この日は一汐カランとした建物の中で、何のことか解らぬまま聞きおわった。

終戦、世間は今後の行く道に混沌としていた。十五才の私には考えの材料もなかった。終戦によって、学校にもどったが、勉強にも皆が落ちつくのに間がかかった。翌年、五年制の学校であったが四年で卒業した。

その後、お向かいの和裁の稽古に毎日通った。若くもあり、和裁の腕は上達したが、和裁だけではと看護婦になるべく準備をした。

父母や周囲は今から三年かかること、看護婦に対して好まぬ、等々、反対であったが、女性が職業を持たねば、という考えから、一年間準備期間とした。当時看護婦は、保健婦助産婦看護婦法の改正に伴って、看護学校の入学資格は、高校卒業になっていた。私は、四年間の女学校、まして動員や戦時下による教育の不充分さ、卒業後四年間のブランク等条件はそろわなかったが、過渡期のためか、何んとか入学出来た。

真剣に学んだので一年間の成績は良かった。でも、二年以降は普通になった。

病院の看護婦にとどまるよりはと、保健婦学校にすすんだ。勉強にはあきたらず、夜、診療所のアルバイトを六~九時毎日休まず行った。

以後、職業歴三十二年、この間夜の大学に四年、その後結婚、二人の女の子あり。夫がもしものとき、子を露頭に迷わしたくない思いで仕事を続けてきた。「女は家に、と」常に言われ続けながら…

男尊女卑女性差別の中に育てられ、母親の教育に反撥、全寮制という名の家出。女性の収入の無さに泣いた多くの人々のみじめさを見、自分の子は自分が生きている以上、せめて露頭に迷わしたくない、と職業をもった。今は、時代が変わろうとしている。その社会的背景には第二次世界大戦があった。

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