新型肺炎とSARS – 患者数隠蔽
中国・武漢で発生した新型コロナウィルスによる肺炎患者が日本でも見つかった、と言うニュースが入って来た。
コロナウィルス肺炎は、最近では2015年に韓国で感染が拡大したMERS(*1)があったが、日本ではSARS(*2)が大きなニュースになった。
ちょうど感染が拡大しつつあった時期に北京に行き、中国では”非典(fei dian)”と呼ばれていたSARSに関連した“プチ”恐怖を体験した。
2003年3月のある日、下痢・腹痛と高熱の症状が出た。風邪とは違うな、とは思いながら一晩寝てれば治るだろうと考えていた。しかしながら丸2日経っても熱は下がらず、日本から持って行った薬は何の役にも立たなかった。仕方無く外国人専門の病院(北京和睦家医院)に行くことにした。
一人の友人に付き添ってもらいタクシーで病院へ。入口の消毒液で手を消毒し、マスクを渡され、待合室で受付票の記入と検温。それから誰もいない診察室に通され、しばらく待っていると白人の医師が、マスク、ゴーグル、医療用手袋の重装備でやって来て、症状の問診と聴診器で肺の聴診。繰り返し繰り返し咳や息苦しさの有無を尋ねられた。呼吸器系は全く問題なかったので、重装備の医師もホッとした様子で診察は無事に終わり、待合室に戻った。
そこで日本人の医療通訳のFさんが来て、”本当は熱のある患者は受付では無く隔離された部屋に通さなければいけなかった。北京市からは呼吸器系の症状のある患者は、軍管轄の病院に送るように指示されている。既に10人以上送っているが、それらの患者のその後の状態を確認しても、病院や北京市からの返答は無い”などと話してくれた。当時の北京市内のSARS患者の数は北京市発表では20人未満だったが、Fさんの話を聞いて、患者数がそんな少ないわけ無いな、と思っていたら、2〜3日後の発表では案の定患者数100人以上に急増した。
北京事務所で働いていた中国人の同僚は更に怖い体験をした。やはり高熱を出し、病院に行くといきなり隔離され、検温と呼吸器系の検査をされた。呼吸器系の問題は無かったが依然として隔離されたままで、来る日も来る日も検温と呼吸器系検査の日々。
高熱の理由は、呼吸器とは全く関係の無い腎臓系の病気。呼吸器検査以外の治療は何もしないまま4〜5日は隔離され、SARSでは無い事が確認されてやっと腎臓の治療をされたらしい。その間ずっと高熱や痛みなどの辛い日を過ごす羽目になった。
幸いにしてその後元気にはなったが、一歩間違うと重症化していた可能性もある。
SARS騒動の時は、人混みを避ける中国人が増え、繁華街やレストランなどは閑散としていた。食料は仕入れないと行けないので商店には客は居たが、必要なものを買ってさっさと帰る、と言う感じ。
我々、外国人は街から人が消え、逆に感染の可能性が減るだろう、と食堂などに通っていたが、確かに店員さん達は暇そうで、また、不安そうだった。
中国人は、中国内のSARS報道は限定的で信用しておらず、外国人の我々にそれぞれの国のニュース状況を仕切に尋ね来た。自分としては、SARSそのものは、例えば麻疹(はしか)などに比べると感染力は弱いと思っていたので、さほど怖いとは思わなかったが、腎臓病で隔離された同僚ように、少しでも疑わしい症状が有ると隔離されて見殺しにされるのでは、と言う恐怖感は常に感じていた。
今回のコロナウィルス肺炎。春節で中国人の大移動が始まる。現在は2003年当時とは比べ物にならない数の中国人が世界中に旅行する(*3)。感染力がどれくらい強いのか分からないが、正確な情報だけは伝えて欲しい。
*1 : MERS – Middle East Respiratory Syndrome=中東呼吸器症候群
*2 : SARS – Severe Acute Respiratory Syndrome=重症急性呼吸器症候群、中国語では非典型肺炎、略して”非典”
*3 : 中国人の来日数 2003年2月 41,864人→2019年2月 723,617人(日本政府観光局)