鳥葬 - 儀式
白い布袋を背負った人が石の敷き詰めてある葬場のまわりを三周、その後逆方向に三周、そして、我々から一番遠いところに有る高さ1m、幅50cm位の石に布袋をもたせ掛けた。その向こうの大きな石影から読経の声が聞こえている。
大きなナイフと、同じくらいの大きさのかぎ状の道具を持った人がやってきて、おもむろに布袋を切り裂く。中からうずくまった体勢の裸の遺体が。異様に白い、すでに血液は抜かれているようだ。
その遺体をまっすぐに伸ばし、ナイフで腹部の皮膚を水平に一切り。すかさず、カギを切り裂かれた皮膚に引っ掛け、さっと下に引っ張る。皮膚が簡単に剥けていく。横から「きゃっ!」と言う悲鳴。遺体を裏返し、背中にも水平に一切り、今度は上向きに皮膚を剥く。背中から、首、髪の毛のついた頭部の皮膚がするするっと剥けていく。子供の頃に図鑑で見て怖かった「人体筋肉標本」のよう。ハゲタカが一歩、また一歩と歩み寄ってくる。
皮膚がすべて剥がされたところで、一人の僧侶が遺体の胸部をナイフで叩き切り、赤味がかったこぶし大のかたまりを取り出す。心臓だ。
心臓を我々が見ているそばにある石の台に持ってきて、薄く切り始める、と同時に別の僧侶が腸やその他の臓器を取り出し、あたりにばら撒く。手前側ではスライスされた心臓もばら撒かれている。
と、ハゲワシたちが一斉に遺体、心臓、内臓をついばみ始める。50羽はいるだろうか。ハゲワシの影からわずかに遺体の手足が見えている。目の前で繰り広げられる光景に目はくぎ付け。
目で見ている光景は何ともいえない凄惨な物だが、あたりには宗教儀式独特の厳粛な雰囲気が漂っている。自分の気持ちも奇妙なほど落ち着き払っている。言葉では言い表せない安心感のようなモノが感じられるとても不思議な気持ち。恐ろしい光景を見ている自分と、それを上空から見ている自分。自分が二人に分離した感覚。
一分も経たない頃か、僧侶がハゲワシたちを追い払い、遺体の頭部を切り離す。
僧侶が頭部を我々の方に持ってきて、石の祭壇に置く。ハゲワシたちは再び頭部の無くなった遺体に群がり始める。
頭部に対しては何かの儀式でも行われるのかと思っていると、2~3羽のハゲワシが頭部を石の祭壇から奪い取り、首の部分から嘴を突っ込み脳髄を貪り食い始める。頭部が転がる度に、地面に敷き詰められた石にあたるカランコロンと言う音がする。時折り遺体の顔がこちらを向く。
怖い。
が、目をそらすこともできない。
頭部の無くなった遺体はハゲワシたちに引きずり回され、斎場の外へ出そうになる。僧侶がハゲワシを追い払い、遺体を斎場の真ん中へ引き摺り戻す。肋骨のまわりの肉はきれいに食べ尽くされている。その他の部分の肉もほとんど無くなっている。まだ、儀式が始まってから20分も経っていない。
「あとは骨を砕いて食べさせるだけだ。時間が来たから帰ろう。」運転手の声に従い、我々は何とも言えない複雑な気持ちで、天葬場を後にし、山を降りた。